就職・職業生活

FDだから、仕事するのはむずかしい?

 生活していくためにも、生きがいのためにも、人は仕事をしなければいけません。

 しかし学生の頃は、FDであるが故に、自分にまともな仕事ができるのか、想像がつきませんでした。結果的には、手前味噌ですが、他の同僚以上の仕事をし、むしろ責任の重いポストに従事してもいます。

 

 一概には言えないでしょうが、仕事とは、企画であろうが営業であろうが総務であろうが現場であろうが、「他人との関係を築く」ことそのものであることを知ったのは、就職してしばらくしてからのことでした。もし学生時代にそのことを知ったら、FDの自分にはとてつもなく高いハードルに思えて、思わず後ずさったでしょうか。あるいは、どんな仕事もそういうものか、と開き直って、自分の希望する道をまっしぐらに進んだでしょうか。

 

 私は、就職に際して、FDであることを理由に、自分が本当に進みたいと思った仕事から逃げてしまいました。自分はマスコミや教育関係の仕事がしたく、ある出版社から内定をもらっていました。しかしその後、本当の第一希望だった中堅の出版社から、ほとんど内定をいただける直前まで至ったのにもかかわらず、土壇場で、FDであるが故にまともな人間関係を築くことができないかもしれない、という思いにとらわれてしまい、自分の中で「大組織の方が、社会に貢献できるやりがいのある仕事があるだろう」などともっともらしい理由をつけて、出版とは別の就職先を選んでしまったのです。悔しいのであえて意識しないようにしていましたが、内心「大組織なら、FDの自分にも居場所があるかもしれない」というネガティブな理由が決め手となったのは間違いありません。

 

 しかし、就職してみて、自分の考えは浅はかだったことがわかりました。仕事の本質とは、他人との関係を構築していくことであり、大組織であろうとなかろうと本質は大差ないということを身を持って体感したからです。

 

 これまでに、広報部門を中心に、いろいろな仕事を経験してきました。仕事をはじめてすぐ、思いがけず、とある離島に2年間赴任することになり、やっていけるのか悩んだこともありますが、環境の変化を症状の克服につなげようと前向きに考えました。実のところ、他人と食事ができないがゆえの失敗はいくつもあり、ずいぶん恥ずかしい思いもしましたが、それが仕事そのものの出来・不出来に関係あったと思うことはありません。

 

 泊りがけの出張で相手先との食事に悩んだりとか、同僚と昼食に行けず寂しい思いをしたとか、出張先で連れて行ってもらった寿司屋で一口も食べられなかったとか、ビジネスランチで食事が喉を通らなかったとか、上司がおごってくれたのにほとんど残したとか、弁当に手をつけずに不思議がられたとか、客先で皆が定食を食べている時に自分だけアイスティーを頼んだとか。思い出すと冷や汗が出るような失敗もあります。でもまあ、何とかなります(何とかならないこともありますけどね)。少なくとも、それが原因で、のちのちまで何か影響するようなことは、そうはありません。

 

 就職してから今まで、仕事には自分のベストを尽くしてきました。周囲にも認めてもらえていると思います。今でも、新聞広告や書店であの出版社の本を見かけるとき、ちくりと胸が痛みますが、今の仕事に一生懸命取り組むことが、現時点での自分の役割だと思っています。まあ今後、どうなるか分かりませんけどね。

 

 ただ、これから仕事を選ぼうという人は、FDであることを理由に、自分の希望を妙な方向に曲げないで欲しいなあ、と思います。どんな仕事であろうと、困難があるのはまったく同じ。進んでいくうちに道が開けるということもありますから。

 

仕事で想定される典型的なシーン

仕事をしていると、どうしても会食が避けられないこともあるでしょう。私もいまだに、時々失敗してしまいます。典型的なシーンを、ちょっと再現してみました。

 

  • 客と重要な打ち合わせがあり、上司と外出することになった。 昼食の時間を避けるようアポを取ろうと思うが、都合が合わず、午前11時からの打ち合わせになった。
  • 打ち合わせ中、「いっしょに昼食を食べることになるかも…」という不安がよぎり、何となく心臓がどきどきする。
  • 打ち合わせは12時までかかり、案の定、「昼でも食べましょうか」ということになった。一人なら「次の予定があって」と言えるのに、上司が「いいですねえ」と言ってしまった。うわっ。心臓どきどき。
  • そば屋など、比較的軽くて食べやすい所を選ぼうと企むが、客が「いいとんかつ屋を知ってますよ。味もボリュームもなかなかです」と言い、逃げ場が無くなる。よりによってとんかつ!心臓がどきどきし、のどが渇く。
  • 店に近づき、匂いが漂ってくる。気分が悪い。落ち着かず、逃げ出したいが、話をして平静を装う。今日はダメかも、と思う。こういう時はだいたい失敗するので、「昨日、飲み会で胃が痛いんですよねー」、などと、あらかじめ予防線を張る。
  • 端の席を確保しようと焦る。メニューには定食しかない。「重箱」とかフタのある容器なら、さっさとフタをして隠せる可能性があるので少し気が楽になるところだが、もうダメだ。皆、「ロースかつ定食」を頼む。「自分も同じ」と言いたいが、油身が少なくて少しでも食べやすそうな「ひれかつ定食」を頼む。「おお、リッチだねえ」と言われ、いたたまれない気分になる。
  • 食事が運ばれてくる。箸を割る手が気持ち震えているかも。少し口に入れてみる。水で飲み干す。もう少し口に入れるが、味が広がって気分が悪くなり、動きが止まってしまう。水で飲み干しながら、気づかれていないか周りをそっと見渡す。
  • 少しでも食べたように見せようと、食べ物を端に寄せてみたりするが、かえって増えて見える。
  • 客が「おいしいでしょ、この店」と言い、無理に同意するが、食べていない事に気付かれているかもしれない。
  • 皆が食べ進めると、こちらが減っていないことに気付かれているのではないかと不安になる。
  • こうなると、もうダメ。ほとんど手を付けられず、水ばかり飲んでしまう。
  • 皆が食べ終わる。視線が気になる。話をして平静を装う。
  • 客に、「どうしたんですか。調子悪いんですか」と言われ、「ええ、ちょっと」と答えながら、申し訳ない気持ちになる。
  • お店の人が、「お済みの方、お下げしてよろしいですか」と聞く。自分の前だけに膳が残り気持ちが焦る。
  • しばらくして、周りの目を気にしながら、店の人に、「下げてください」と頼む。店の人に申し訳ない。
  • 食事が下げられると、何事もなかったように不安が去り、急に空腹になったりする。
  • 店を出て、「ああ、久しぶりに失敗した・・・」と、内心、激しく落ち込む。

 

書いていて気分が悪くなってきました(汗)。こういう失敗をすると、しばらく外食から逃げたくなるんですよね。

これは最悪のケースで、ここまでにならないように注意はしていますが、それでもたまにやってしまいます。

 

失敗しても、あまり考え込まず、友人との食事などハードルの低いことにトライして、なるべく早く復活するように努めたほうがいいと思います。

でも、失敗はあまりしたくないものですね・・・。

どう向き合えばいいのか

 仕事によっても状況は異なりますし、こればかりは一概には言えません。

 私は、特にカミングアウトせずにやりすごせていますが、しょっちゅうお客さんと昼食をとるような仕事の場合は、相手に不信感や心配を与えず、きちんとした人間関係を築くためには、やはりカミングアウトすることが必要なのかもしれません。このあたりは、実際に働いている方々のご意見を聞いてみたいところです。

 

 個人的に大切だと思うのは、FDであるが故のマイナスをカバーする努力をしたり、少なくともそう心がける気持ちを持ち続けることだと思います。昼がだめなら夜を活用するとか、食事がだめなら人の2倍、こまめなコミュニケーションをはかるとか。他者との関係構築を完全にあきらめた時点で負けというかオシマイなので、実行するのに骨が折れる場合もありますが、少なくともそうした心構えは持ち続けるようにしています。

 

 簡単な解決策などないので、自分の仕事の仕方や、職場での生き方を、試行錯誤しながら見つけていくしかないような気がしています。人とうまく食事がとれなくても、果たすべきふさわしい役割はきっとありますから。

 

経験談をお寄せください。